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fahrenheitizeのブログ。

東村アキコ『東京タラレバ娘』ーもう"女の子"じゃないアラサー女子たちの現実

オレに言わせりゃあんたらのソレは女子会じゃなくて
ただの…行き遅れ女の井戸端会議だろ
そうやって一生 女同士でタラレバつまみに酒飲んでろよ!

東京タラレバ娘が面白い。アラサーの女性たちが抱えているであろう心情を巧みに切り抜いている。決して斬新な内容ではなくて、なーんとなくみんなが感じてたことを漫画化したノリ。
十年前に自分を好きだった人があらためて食事に誘ってきた際に、「いまの自分」として身構える姿。思わぬ失恋を「女子会」で気晴している姿。失恋が"悲しい"とか"悔しい"じゃなく、「虚しい」になってしまう姿。どこかでなんとかなると思いながら、ならない現実。


タラレバ(「〜たら」「〜れば」)=願望を言う余裕がない年齢という「現実」をたたみ掛けるように描写している。二十代の前半に比べて成長した部分、差し迫っているデッドライン。これは幸か不幸か男にはあまりない感覚なのは間違いない。


この作品の本質は登場人物がストレートに言っている。

酔って転んで男に抱えて貰うのは25歳までだろ
30代は自分で立ち上がれ
もう"女の子"じゃないんだよ?おたくら

居酒屋で知り合った若いイケメン君が主人公のアラサー3人組を刺しにきた言葉。

同時に、主人公の心の声も本質だ。

お呼びでない?あっそう こりゃまた失礼いたしまっした♪
ってなわけにはいかねーんだよ バカヤロー

俺がこの作品で感じたのは「取り戻せない周回遅れ」について。昔の自分みたいな失敗はしない。だけど、世間の風当たりは強くなっている。チャンスも少なくなってきている。そして、若い頃から"ためしてみる"柔軟性を持っている娘にはかなわない。それでもいまの「現実」を直視して、そのなかで最善を尽くしていくしかないということ。そこから始まるものがある。

おそらくこれはアラサーの恋愛だけでなく、人生全般に言えること。取り戻せないと思うのではなく、妄想のような願望を抱くのでもなく、"いま出来ることをただやる"ということ。


作者自身があとがきで書いているように結婚する人生が正しいとは俺も思わない。ただ、やっぱり「それでも」と思うのであれば現実は現実として見据えてやっていくべきだ。これをジャマするのはどこかで「そこまで悲惨でない」「最終的にはなんとかなるにちがいない」という自分だけを例外に置く甘えにあるような気がする。そういった感情は自分自身も突き刺すものなのだけど。


傷を舐め合うクダラナイ女子会はもう止めませんか?-AM


俺自身は女性向けのWeb媒体でコラムを書いているわけだけど、男はそのあたりの感情や痛みを分からない。「男の俺から見てあんたらそのままじゃヤバイぞ」と伝えることしかできない。耳障りの良いことはこっちだって言いたいのだけど(モテるから)、所詮は男の言葉なんだけど(だって男子なんだもん)、やっぱりそれじゃダメなんですよね。耳に痛いことを受け止めることで、自分のなかのバカ女を殺してほしい。

自分はそれに近しいメッセージ性をこの漫画のなかに見ました。ともあれアラサー・アラフォーの人たちは一読の価値があると思います。(既刊が1巻なので読みやすい)


さて、この漫画自体はラストには乙女チックな事件が起きます。東村アキコさんが好きな少女マンガ的カタルシスが一時的におとずれます。ただ、これが最終的な「解決策」になるとは思えないし、そうだとしたら他のアラサー2人に救いはない。

作者はただ「身のまわりのアラサー・アラフォーの女友達をネタにそのまんまひどい(自分のかわりに檄を飛ばす)漫画描いてやろう」が始めのモチベーションと語っていますが、この先はどうなるのでしょうか。おそらく決着をつける(読者に道を見せる)気はないとは思うのですが、そうなることも期待したいな。


映画化された「海月姫」の1巻がいまは無料になっています。

俺がいちばん好きなのは『かくかくしかじか』。ここ最近読んだ漫画のなかで一番のヒットです。