女を惹きつける男になる大事な条件とは何か?
顔が良いことか?スタイルが良いことか?金を持っていることか?喧嘩が強いことか?優しいことか?お洒落であることか?
濱田成夫はこの本でそれを教えてくれる。答えは「チャーミング」であることだ。
直訳の"魅力的な"ではなく、"可愛らしい"という言葉の方がニュアンスが近いかもしれない。そこにちょっぴりの"ユーモア"が混じればほぼ完璧。
この自伝小説は13人の女たちがいかに濱田成夫に惚れてきたか?ということを、彼女たちの目線で、"濱田成夫自身"が書いたものだ。本当にバカバカしいのだけれど、二つの意味で感心させられる。
ひとつに、彼自身がそれをアホだと分かっていながらやっていること。小馬鹿にする前に彼のあとがきを読んでみると良い。この着眼点を半ばマジで、半ば舌を出しながら彼はパフォーマンスしていることに気づかされる。地の破天荒では出来ないことなのだ。
え、そんなことやりたくもない?そんなあなたは濱田成夫よりもモテてるんですか?クラブの音楽を止めてアドリブで一時間以上の自分を褒め称える演説を打てますか?それが出来ないのならば僕たちは彼に屈服するしかない。
ふたつに、この小説を読んでいると、悔しいことに濱田成夫と女の子のエピソードに微笑ましくなり、心をくすぐられるような気持ちになってしまうのだ。
濱田と横浜で知り合った女の子が、彼の地元の海でデートをするために神戸に行くエピソードがある。駅に着いた彼女を迎えに来た彼は、彼女のためにイカ焼き(*)を買って持ってきているのだ。
(*イカの姿焼きではなく、お好み焼きのようなもの)
イカ焼きは海の家で買える食べ物で、「うまないからこそ、うまいんや」と彼女に話をしていたものなのだ。一緒にひとくち食べて、彼女と気持ちを共有した彼は自転車で海に連れて行くのだ。
「なあそれより女よ!そのイカ焼き、いつまで持ってんねん。捨ててまえよ!自転車でニケツをしてこの会話をしていることに、たまらない可愛さがある。
左手でイカ焼き持って右手で俺を持つぐらいやったら両手で俺を持て女よ!」
「うん。でもゴミ箱見当たらないし」
「地面に捨ててまえ!」
「だめよ!地面にゴミを捨てるなんてできない!」
「かまへん!かまへん!」
「あ、濱田さんは、そうやっていつも地面にゴミを捨ててるんでしょ。
そういう人なんだ!」
「ん、んなことあるかいや!ちょっと君を試しただけや、
君がちゃんとゴミ箱にゴミを捨てる子で安心したわ」
「そんなの、みんなそうよ!地面に、捨てる人なんていないわ」
「たしかにそうや、俺も同感やで」
「フ、フ、フ、そうよね!地面に、捨てる人なんていないわよね?」
「お、おらん!おるわけない!」
この小説の中で登場する濱田成夫は無茶苦茶だ。代々木公園でゆいぐるみ売りをしたり、喧嘩の最中に女の子をナンパしたり、アイスコーヒー占いに興じたり、ナンパした女の子にイヤホンの片方を貸してボブ・ディランを聴いたり。
どこまでが虚で実かなんて野暮な話で、読後感がそのまま彼が女の子を惹きつけている理由の証明になっている気がしてしまう。魅力的な男とは彼のスタイルだけでは決してない。けれど、彼のスタイルは確かな説得力を持っているのだ。
男はやっぱり心のどっかに彼の詩だ。この詩を見てピンと来なかった人も、この本を読めば実感することが出来ると思う。おそらく、女の子の方が敏感にこれを感じるような気がする。それを感じ取れることが魅力的な男の条件だと俺は思ってる。
ミッキーマウス入ってるぐらいやないとアカンと
俺は思とる。
詩の紹介
いくつか好きな詩を紹介しておきます。俺様は約束してない事を守ったりする (俺の魅力)
先月から あの娘の家には 灰皿があるんだぜ うれしいな (うれしいな)
俺が俺の好きな女のもとへ 会いに行く道すべて恋路
せやから 今俺を乗せたタクシーが 走ってるこの道も恋路
三代目魚武濱田成夫 恋路を今 走っとる (恋路)
俺が一番好きな夜景は あの娘の部屋にともる灯 (夜景)