My Favorite, Addict and Rhetoric Lovers Only

fahrenheitizeのブログ。

大事な友人の婚姻届にサインをした

 しばらく前、十年来の友人から「今度、法的な書類に保証人のサインが必要なので協力してほしい。絶対に迷惑はかけない。」と連絡があった。ヘイ・マイフレンド、俺、親から連帯保証人にだけはなるなと言われて育ったんだが……。

 と思いつつ、おそらく婚姻届だなと感じた。彼が院生の頃から付き合っていた彼女のことを「かまってちゃんなのが多少しんどい」とうんざりしていた様子から、「彼女を大事にしていきたい」というような趣の心変わりを聞いていたからだ。こうなると別れることはもうないんだろうなと感じてはいた。

 十中八九、彼の「結婚のサプライズ」だなーと思ったし、最悪、何らかの連帯保証人であったとしても、まぁサインしようと思っていた。付き合いも長く、こいつが金銭面でキレイな(何が何でも自分で処理する類の)人柄なのは知っているからだ。


 渋谷で待ち合わせると、彼と彼の彼女が一緒にやってきた。そう、やはり婚姻届の保証人へのサインだったのだ。「形式的なものだから誰でもいいものなのだけど、どうせならお前に書いてもらおうと思って」とは彼の談。


 彼とは浪人時代に大阪で知り合った。当時、俺らは代々木ゼミナールの寮で同じ釜の飯(くさくはなかった)を食った同期の桜なのである。十代のときに大好きだったバンドが一緒で、すぐに打ち解けたものの「友人」かと言われると難しいところで、共通の趣味を持つ寮生というところだった。おまけに当時の俺は人間性がゴミクズだったので、毎朝彼に起こしてもらっていた。朝メシを一緒に食うという口実なのに、「30分後にもう一回起こして…」という体たらくぶりで、彼は律儀にまた起こしに来てくれるのであった。(ホンマ俺クズやったな…)

 徐々に自分のなかでも彼が特別になり始めたのは大学時代を通して。浪人時代の仲間でも上京した者は少なく(関西地方の人間は、大体は大阪か神戸に留まるのだ)、合コンで盟友になったS君はともかく、会いたいと思える人はいなく、そんななか彼とは何やかんや定期的に会っていた。数ヶ月か半年に一度はどちらかの家に行っていた。


 彼に対する尊敬が芽生えたのもこの頃で、彼の不器用さと混在している「不屈の突破力」みたいなものは本当に凄いと純粋に感じるようになった。元々、中学時代に引きこもりだった彼が一念発起して半年で大検を取得、1浪目に東京理科大に合格して、それを蹴って2浪目だった時が出会いだったことを後で知った。
 大学時代には英語サークルに精を出す俺を淡々と尊重して見守ってくれ、彼自身は四年生のときにカナダのトロントに留学していった。いつも決断して実行する段になってから当たり前のように俺に言うのがカッコ良かった。おまけに就学ビザはバイトができないので、範囲内でやりくりしてアメリカ横断まで仕掛けるバカ(褒め言葉)っぷり。

 不本意な事情でドクターを断念することになった彼は、俺の知り合いがファウンダーのベンチャー起業を紹介した(ツテというほど大したものではないが)のを糸口に、いまは個人事業主として並みのサラリーマン以上に稼ぐようになっている。最近では週に一度集まって、俺は原稿の執筆を、彼は自分のタスクをこなしている。
 彼とはそれぞれやっていることが変わっても、なぜだかわからないけど昔から変わらない気持ちで一緒にいられて、意外にそういうのって貴重なことだと感じさせられる。


 自分は「古くからの友人」みたいな関係に価値を置かない人間だ。「昔話に花を咲かせる」のは数年に一度でも多い。同時に、「自分が刺激を与えることが出来て、刺激をもらうことが出来る関係性」が継続的に、長期的に成立する相手も意外に少ない。多くの場合は最初の目新しさが終わってしまい、アップデートがなくなったら同じ話の繰り返しになってしまったりする。そういうのはすぐに嫌になる。

 彼も俺も好奇心が旺盛なので、色んなことに手を出す。ときには時期は違えど趣味が重なって話題に花が咲く。そんなことが心地よいのだと思う。お互いに立場とか働き方は違っても、干渉し合ったことはないし、自分の価値観を押し付けあったこともない。まぁ簡潔に言うとフラットな関係でいられているんだと思う。


 婚姻届はナイス達筆でキメようと思っていたが、見事に書き損じが発生してしまった。ギャーッス!二重線、実印、平謝り。控えの方は上手く書けたのだが、結局、どちらが採用されたのだろうか…。サインをしながら思ったのは「俺に結婚願望ができた途端に、先に結婚されるとは面白いな」ということだった。彼とはデコボコにある部分ではどちらかが先行して経験して、別の部分では逆の方が先行したりを繰り返していたので(海外生活、社会人、同棲、独立等)、人生大一番を先にキメられた気分である。

 先日、新居にオジャマさせてもらったけれど、だだっ広い屋根裏のようなロフトがときめく物件で、そこはおもちゃ箱のようにサブカル味付けの本棚、趣味である楽器…デューセンバーグのギター・ピアノ関連が良い感じに雑然と置かれた素敵な空間になっていた。大学時代の彼が、誰かと一緒に住むなんて考えられなかったけど、それが当たり前のことになっていることを見せてもらったのは何だかあったかい気持ちになった。


 そのまま飲みに行って、何かの話の流れで彼が自分の弱い部分を嫁に共有しないという話になって、「それ寂しいよね?」と嫁に振り、「ですです〜」と返したので、「ほれ、寂しがらせてるぞw 嫁を自分の心の中に受け入れるスペース空けろよー。 」とふざけて突っ込んだところ、「受け入れ方がわかんないんだよw」と恥ずかしそうに彼が言ったのを聞いて、なんかこの二人は大丈夫なんだろうなと思ったのであった。

 彼の長所は自分の中でなんとか処理してしまう強さなのだけど、昔の彼なら他人を自分の心に入れる気もなかったタイプで、それが「受け入れることができるなら、受け入れたい」という心境になっていそうなことに、本当に一人ではなく、二人で生きて行くことを手探りでやっていってるんだなーと素敵に感じた。
 本当に、末長くお幸せにね。そう遠くないであろう、俺の婚姻届のときは保証人はよろしくね。

f:id:fahrenheitize:20070911182634j:plain:w500

2007年、彼と一緒に行ったNYのウォール街にて猛牛オブジェのタマタマをさわる俺。このオブジェが一体何だったのか未だにわからない。